【彩雪】
「……ありがとうございます」
【道満】
「……礼は不要。そう言った」
【彩雪】
「で、でも……」
【道満】
「いい。……顔をあげろ」
布のすれる音に続く言葉。
それにそっと顔をあげれば、感情の薄い瞳がわたしを見下ろす。
綺麗な色……。
鮮やかな赤は、何度見ても目を奪う。
でも……。
【彩雪】
「あ、あの……」
この人はなぜ、こんなにも真っ直ぐにわたしを見るのだろうか。
もしかして前に……。
【道満】
「……名は何と言う?」
【彩雪】
「え……?」
思考の途中、ふと投げかけられた疑問。
それに思わず間の抜けた声をあげてしまった。
【彩雪】
「……えっと」
【彩雪】
「彩雪、といいます」
迷った末に告げたのは、わたしの『名前』。
晴明様に付けられた参号という名ではなく、
私の唯一の記憶、本当の名前――。