【晴明】
「……気分は、どうだ?」

ようやく繋がった心と体で、わたしはゆっくりと声のした方へと首をめぐらせた。

――瞬間。
視界に飛び込んできた光景に、思わず息を呑む。

……綺麗、だと思った。

几帳越しに差し込む月の光。
それを背にして、わたしの傍らに居たのは、長い黒髪をたらした――男の人だった。

腰まで届くそれは、夜気に濡れてきらきらと輝いている。

夜の静寂の中でじっと見つめているのは、深い色をした不思議な瞳。

全てを見透かすような、けれど全てを覆い隠してしまいそうな――。

そんな、深くて……どこか哀しい……。

【晴明】
「……まだ、安定していないのかもしれんな」

ぼうっとしているわたしに焦れたのか、綺麗な人は、訝(いぶか)しげにこちらを覗き込んできた。

――さらり、と。

絹糸のような髪が一房、乾いた音を立てて褥に落ちる。

はぐれた数本の髪が、横たわるわたしの頬をかすめた。

……胸が、早鐘を打つ。

【晴明】
「私の声が、……聞こえるか?」